代表的な虫歯予防の方法と言えば、やはりブラッシングや歯科クリニックでのクリーニングなどが挙げられます。
またこれらのケアを行う際には、口内での出血が見られる場合がありますが、この出血を怖がっていてはいけません。
今回は、なぜ怖がってはいけないのかについて解説します。
出血は蓄積したプラークによる炎症のサイン
歯ブラシやデンタルフロスを使用している際、ジンワリと血がにじんだり、うがいをした水が赤くなったりすることがあります。
これに対し多くの方は「力を入れすぎて歯茎を傷つけてしまったのではないか」「自分のブラッシング方法が間違っているから、これ以上は触らないようにしよう」と恐怖心や不安を抱きがちです。
しかし実はその出血のほとんどは、その場所に虫歯菌や歯周病菌を含んだプラークが長期間溜まり続けたことによって引き起こされた歯茎の炎症そのものが原因です。
口の中の細菌が歯と歯茎の隙間に定着すると、私たちの体はこれ以上の細菌侵入を防ごうとして、白血球などの免疫細胞を患部に集中させる防衛反応をスタートさせます。
このとき、酸素や栄養を大量に運ぶために、歯茎の中にある微細な毛細血管が急激に増殖し、さらに一本一本の血管がパンパンに膨らんで充血した状態になります。
これが歯肉炎と呼ばれる状態です。
この充血した血管は、風船のように非常に薄く破れやすくなっているため、歯ブラシの毛先やフロスが軽く触れただけの、ごくわずかな物理的刺激であっても容易に破れて出血してしまいます。
つまり、出血は体が細菌と必死に戦っている危険信号であり、決してケアを中止すべきというサインではありません。
むしろここにプラークが残っていて、今すぐ除去しなければ虫歯菌の温床になるという正確な目印です。
このメカニズムを正しく理解し、出血に怯むことなく、その場所を適切に清掃することが虫歯予防の絶対条件です。
出血を恐れて磨かないと不潔の悪循環に陥る
出血を怖がってしまい、血が出る場所の歯磨きの手を緩めたり、その周辺に触れないように歯ブラシを避けて通らせたりすると、口の中は不潔の悪循環に陥ります。
プラークはただの食べカスではなく、生きた細菌の塊です。
血が出るからといってブラッシングの手を止めてしまうと、その場所のプラークは取り除かれることなく、さらに雪だるま式に増殖を繰り返していきます。
さらに恐ろしいことに、プラークが除去されずに48時間~72時間ほど経過すると、唾液の中に含まれているカルシウムやリンなどの成分と結びつき、歯石へと変化してしまいます。
歯石そのものが虫歯の毒素を出すわけではありませんが、歯石はザラザラした構造をしているため、その上にさらなるプラークを吸着させる巨大な要塞となってしまいます。
こうなってしまうと、もう自宅の歯ブラシやフロスでいくら擦っても自力で落とすことは不可能です。
細菌の要塞が居座り続けることで、歯茎の炎症はさらに深刻化し、血管はより破れやすくなって、次に触れたときにはさらに大量の出血を伴うようになります。
それと同時に、プラークの中に潜む虫歯菌はじわじわと酸を放出し続け、歯の表面にある硬いエナメル質を容赦なく溶かし始めます。
初期の出血であれば、出血を恐れずに数日間適切に磨き続けることで汚れが落ち、炎症が引いて自然と血が出なくなります。
この悪循環を最初の段階で断ち切るために、出血を恐れない強い意志が必要なのです。
健康な歯茎はブラッシング程度では出血しない
「自分の歯茎は生まれつき弱いから血が出る」「使っている歯ブラシが硬すぎるから血が出る」というように、出血の原因を自分の体質や道具のせいにしてしまう方がいます。
しかし医学的には、プラークによる細菌感染や炎症が一切ない完全に健康な歯茎であれば、通常の丁寧なブラッシングやデンタルフロスによる摩擦程度で血が出ることは絶対にありません。
健康な組織は、それほど強固に作られています。
本来の健康な歯茎は、美しい薄ピンク色をしており、歯と歯の間の隙間を埋めるようにしっかりと引き締まっています。
内部の組織はコラーゲン繊維が非常に豊富で、適度な弾力性と柔軟性を兼ね備えているため、毛先が当たったりフロスが擦れたりする程度の日常的な刺激にはびくともしません。
したがって、毛先が優しく触れただけで血がにじむという現象自体が、すでにその場所の組織が病的に弱まり、構造が崩壊しかけているという決定的な証拠です。
この客観的な事実を理解していないと、結果としてもっともケアが必要な病変部を放置するという最悪の選択をしてしまいます。
出血を放置すると虫歯の重症化を招くことも
歯茎からの出血を「体質だから」「いつものことだから」と軽視して長期間放置すると、炎症は歯茎の表面だけに留まらず、歯槽骨まで破壊の波が押し寄せます。
骨が炎症によって溶かされ始めると、骨を覆っている歯茎も一緒に引っ張られるようにして位置を下げていきます。
これが歯茎の退縮です。
歯茎が下がると、本来であればお肉の中に隠れて守られているはずの歯の根元が口の中に丸見えの状態で露出してしまいます。
この歯の根元の部分は象牙質という組織でできていて、普段見えている頭の部分に比べて非常に柔らかく、酸に対する抵抗力が極めて低いという致命的な弱点を持っています。
そのため、根元が露出すると、ほんのわずかなプラークや食べ物の酸であっても、あっという間に激しい虫歯が進行してしまいます。
これを根面う蝕と呼び、大人の歯を失う最大の原因の一つです。
さらに、出血やそれに伴う軽い痛みを恐れて口腔ケアが疎かになると、歯と歯の隙間にひっそりと発生した初期の虫歯のサインを自分で見落とす原因になります。
気づいたときには、虫歯菌が歯の内部を深く食い荒らし、神経にまで達して夜も眠れないほどの激痛を引き起こしたり、歯の根元からボロボロに崩壊したりします。
出血を恐れずにケアの精度を維持することは、歯茎だけでなく、歯の寿命そのものを引き延ばすための不可欠な防衛策です。
まとめ
歯科クリニックでも、自宅でセルフケアをする際の注意点として、「出血があっても磨いてください」というアドバイスは必ず受けることになります。
確かに出血量が多ければ怖いですし、触れることをためらってしまう気持ちは理解できますが、そこで避けてしまうとより症状は悪化する可能性があります。
毎日出血していても、正しいケアを続ければ少しずつ出血の頻度や量は減少します。
この記事を監修した人
ふたば歯科クリニック 川崎本院
理事長 大木 烈
昭和大学歯学部卒業後、昭和大学附属病院での臨床研修を経て歯科医師としてのキャリアをスタート。現在は医療法人社団雙葉会ふたば歯科クリニックの理事長として、医院を統括する。
インプラント治療においては国際インプラント学会専門医の資格を持ち、米インディアナ大学インプラント科客員講師として海外での学術活動にも従事。矯正・補綴など多岐にわたる分野の認定資格を有し、さらに歯学博士の学位を取得するなど、臨床・研究の両面で高い専門性を発揮している。また、厚生労働省認定の臨床研修医指導医として後進の育成にも力を入れており、昭和大学歯科病院および歯学部解剖学教室にも所属し、大学との連携も継続している。
患者一人ひとりに最善の医療を届けるため、年中無休・通し診療という体制を実践。「患者様の生活の質の向上を使命とする」という姿勢のもと、予防から高度な専門治療まで幅広く対応している。