虫歯治療では、タービンやスケーラー、ハンドミラーといったあらゆる道具を使用します。
どれも正確な虫歯治療を実現するにあたって欠かせないものですが、他にも重要な役割を持つ道具は存在します。
今回は、虫歯治療で使用するバキュームに関することを解説します。
バキュームの基本的な役割と仕組み
虫歯治療においてバキュームは、口腔内の水分や異物を瞬時に吸い出すためのもっとも基本的な吸引装置です。
治療中、口の中には唾液だけでなく、歯を削るタービンから噴出される大量の水や、削られた歯の微細な破片、古い金属片などが混在します。
これらが喉の奥に流れ込むと、患者が誤飲・誤嚥する危険性があるため、バキュームによって常に清潔で安全な環境を維持する必要があります。
仕組みとしては、チェアーサイドに備え付けられた強力な吸引モーターとつながっていて、先端のチップから空気ごと物質を吸い込みます。
歯科衛生士や歯科助手が適切な位置にバキュームを配置するバキュームテクニックは、治療の進行スピードや患者さんの快適性を大きく左右する重要な技術です。
吸い込む力が強いため、口の粘膜を巻き込まないよう、絶妙な角度と距離を保ちながら操作されます。
この装置があるおかげで、患者さんは治療中に何度も唾液を吐き出すために起き上がる必要がなくなり、寝たまま治療を受け続けることが可能となっています。
虫歯治療におけるバキュームの重要性
虫歯治療、特に歯を削る処置において、バキュームは絶対になくてはならない存在です。
現代の虫歯治療では、削った部分にコンポジットレジンという白いプラスチック素材を詰めたり、型取りをして詰め物を接着したりする工程が主流となっています。
これらの歯科用材料は水分を非常に嫌う性質があり、接着面に少しでも唾液が触れてしまうと、接着力が著しく低下します。
接着が不十分だと、治療後に詰め物が外れたり、隙間から再び虫歯菌が侵入する二次虫歯の原因になったりします。
バキュームは、歯の周囲を乾燥した状態に保つことで、材料の性能を最大限に発揮させ、治療の精度と寿命を高める役割を果たしています。
また、歯を削る器具は高速回転するため摩擦熱が発生しますが、これを冷却するために大量の水を注水しながら削ります。
バキュームはこの冷却水をリアルタイムで回収し、口の中に水が溜まって患者さんが息苦しくなるのを防ぎます。
つまり、バキュームは単なるゴミ集めではなく、虫歯治療の成功率を直結させる精密なコントロールシステムの一部だということです。
バキュームの種類
虫歯治療で使用される吸引装置には、主に真空バキュームと排唾管の2種類があり、用途に応じて使い分けられます。
まず、一般的にバキュームと呼ばれるものは太いホースの先にかためのプラスチックや金属のチップがついたもので、非常に強力な吸引力を持っています。
これは主に歯を削る瞬間に使用され、大量の水や削りカス、大きな異物を一気に吸い込むために使われます。
一方、排唾管は細くしなやかなチューブ状の装置で、先端がJ字型などに曲がっているものが多く、患者さんの口角に引っ掛けてそのまま口の中に固定して使用されます。
排唾管の吸引力はマイルドで、主に溜まってきた唾液を静かに吸い出すために使われます。
これにより、歯科医師が一人で治療を行う際にも、患者さんの口の中が唾液で溢れるのを自動的に防ぐことができます。
治療の状況に合わせて、これら2つのバキュームを同時あるいは交互に使用することで、口の中の水分バランスを完璧に管理し、不快感の少ない治療環境を作り出しています。
院内感染対策と口腔外バキューム
バキュームは、患者さんの口の中を快適にするだけでなく、歯科医院全体の衛生環境を守る院内感染対策としても極めて重要な役割を担っています。
歯を削る際には、目に見えないほど微細な水しぶきや、歯・金属の粉塵が周囲に飛び散ります。
これをエアロゾルと呼び、これらの中には唾液に含まれる細菌やウイルスが混ざっているため、対策を怠ると空気感染や飛沫感染のリスクが高まります。
治療中に口元で使用する通常のバキュームは、このエアロゾルの大部分を発生源で直接キャッチして吸い込みます。
近年は、口の中から漏れ出て空間に広がろうとする細かな飛沫を捕らえるため、患者さんの顔の前に大きな吸引口を設置する口腔外バキュームを併用するところも増えています。
口腔外バキュームは、空気中に浮遊する微粒子を最大で90%以上除去できるとされていて、診察室の空気をクリーンに保ちます。
バキュームによる徹底した吸引システムは、治療を受けている患者さん自身への感染防護だけでなく、次に治療を受ける方や毎日その空間で働く方の健康も守っています。
まとめ
虫歯治療で使用するバキュームは、他の道具と同じく必須のアイテムです。
これがなければ、患者さんは虫歯治療中にひどい苦しさを感じますし、詰め物の適合性も悪くなってしまうおそれがあります。
また歯科クリニックそのものの衛生的な対策としても、バキュームが使用されるケースがあり、もはやその必要性は虫歯治療だけにとどまりません。
この記事を監修した人
ふたば歯科クリニック 川崎本院
理事長 大木 烈
昭和大学歯学部卒業後、昭和大学附属病院での臨床研修を経て歯科医師としてのキャリアをスタート。現在は医療法人社団雙葉会ふたば歯科クリニックの理事長として、医院を統括する。
インプラント治療においては国際インプラント学会専門医の資格を持ち、米インディアナ大学インプラント科客員講師として海外での学術活動にも従事。矯正・補綴など多岐にわたる分野の認定資格を有し、さらに歯学博士の学位を取得するなど、臨床・研究の両面で高い専門性を発揮している。また、厚生労働省認定の臨床研修医指導医として後進の育成にも力を入れており、昭和大学歯科病院および歯学部解剖学教室にも所属し、大学との連携も継続している。
患者一人ひとりに最善の医療を届けるため、年中無休・通し診療という体制を実践。「患者様の生活の質の向上を使命とする」という姿勢のもと、予防から高度な専門治療まで幅広く対応している。