歯科恐怖症は、過去の治療におけるトラウマなどにより、虫歯治療や歯科クリニックそのものが極端に苦手になってしまう症状です。
ひどい方は、歯科クリニックに向かおうとするだけで体調不良に見舞われます。
では、歯科恐怖症が悪化するとどうなってしまうのでしょうか?
今回はこちらの点について解説します。
人間関係の希薄化と食の喜びからの追放
歯科恐怖症の悪化により歯がボロボロになると、日常生活における最大の娯楽の一つである食事を通じたコミュニケーションが完全に破壊されます。
硬いものや噛みごたえのあるものが食べられなくなると、友人や同僚からの外食の誘いを「うまく噛めないところを見られたくない」などの理由で断らざるを得なくなります。
旅行先でのご当地グルメを楽しむこともできず、旅行そのものへの意欲も失われていきます。
また噛めないことで食事のスピードが遅くなったり、食べ方が汚くなってしまったりすることへの羞恥心から、他人と一緒に食事をすることを徹底的に避けるようになります。
食事は単なる栄養補給ではなく、人間関係を深めるための重要な社会的イベントです。そこから自ら孤立していくことで、親しい友人やパートナーとの心の距離が徐々に離れ、気づいた時には孤独な生活を強いられることになります。
歯科クリニックへの恐怖が、最終的には人生の彩りである親しい人と美味しいものを食べる喜びを完全に奪い去ってしまうのです。
夢やキャリアの制限と就職・昇進における不利益
歯科恐怖症を放置して口の中が荒廃すると、就職活動や転職、社内での昇進といったキャリアの選択肢が著しく狭まります。
現代のビジネスシーンにおいて、口元の清潔感や美しさは、第一印象を左右する極めて重要な要素です。
前歯が欠けていたり、重度の虫歯が放置されていたりすると、面接官や取引先に「自己管理ができない人」「生活が荒れている人」という印象を無意識のうちに与えてしまいます。
その結果、接客業、営業職、あるいは人前に立つリーダー職など、高いコミュニケーション能力や清潔感が求められる職種への道を自ら諦めざるを得なくなります。
また実力があっても、口元を隠すために消極的な態度をとってしまい、面接や社内プレゼンで本来の魅力を発揮できないケースも多々あります。
“歯科クリニックが怖い”という心理的なハードルが、知らず知らずのうちに自分の経済的自立や、やりたかった仕事への挑戦を妨げる障壁となり、可能性を大きく狭めてしまうのです。
非常時や災害時における生存難易度の上昇
地震や水害などの災害に見舞われた際、歯科恐怖症による口内の悪化は、避難所生活における死活問題へと発展します。
災害時に配給される乾パンや硬いクッキー、冷えて固くなったお弁当などの非常食は、歯がボロボロの人にとっては噛むことすらできません。
柔らかいレトルト食品や高齢者向けの介護食などは避難所で優先的に手に入るとは限らず、十分な栄養を摂取できずに体力が急速に落ちてしまいます。
さらに、避難所という極限のストレス環境下では、歯科恐怖症が原因で歯磨き粉や水がないから磨けない状態が続くと、口内の衛生状態が瞬く間に悪化します。
激しい歯痛が突然再発しても、災害時には当然、歯科クリニックを受診することは不可能です。
鎮痛剤も手に入らない中、避難所の冷たい床の上で猛烈な歯の痛みに耐え続けなければならない状況は、想像を絶する精神的・肉体的苦痛になります。
日常の「怖くて行けない」という先延ばしが、インフラが途絶した非常時において、自分自身を極限の飢えと痛みの地獄へと追い詰める原因になるのです。
災害時や事件発生時における身元確認の困難化
非常に現実的かつ衝撃的なリスクですが、歯科恐怖症によって歯科クリニックへの通院履歴が何年も途絶えていると、災害や事故、事件に巻き込まれた際の身元確認が困難になります。
日本をはじめ世界中の警察や法医学の現場では、大規模な災害で遺体の損傷が激しい場合、身元を特定するための最も確実で迅速な手段として歯の治療痕が使われます。
これは、生前に歯科クリニックで撮影されたレントゲン写真や治療の記録と、遺体の口の中の状態を照合するシステムです。
しかし歯科恐怖症で何10年も歯科クリニックに行っておらず、カルテの保存期間が過ぎて記録が破棄されていたり、最近のデータがなかったりする場合、この手段は使えません。
結果として、時間とコストがかかる方法に頼らざるを得なくなり、家族のもとへ遺体が帰るまでに何ヶ月もかかったり、身元不明で処理されたりするリスクが高まります。
つまり自分の生きた証や家族への最後の配慮すらも、恐怖心による放置が消し去ってしまう可能性があるということです。
まとめ
歯科恐怖症は、多くの患者さんが子どもの頃のトラウマによって発症しています。
そのため、なかなか簡単に完治させられるものではありません。
それでも、放置しているといつまでも治療が受けられないばかりか、前述したような重大なトラブルにつながることもあります。
まずは歯科クリニックに相談し、どのように治療を進めていくかを考えるのが望ましいです。
この記事を監修した人
ふたば歯科クリニック 川崎本院
理事長 大木 烈
昭和大学歯学部卒業後、昭和大学附属病院での臨床研修を経て歯科医師としてのキャリアをスタート。現在は医療法人社団雙葉会ふたば歯科クリニックの理事長として、医院を統括する。
インプラント治療においては国際インプラント学会専門医の資格を持ち、米インディアナ大学インプラント科客員講師として海外での学術活動にも従事。矯正・補綴など多岐にわたる分野の認定資格を有し、さらに歯学博士の学位を取得するなど、臨床・研究の両面で高い専門性を発揮している。また、厚生労働省認定の臨床研修医指導医として後進の育成にも力を入れており、昭和大学歯科病院および歯学部解剖学教室にも所属し、大学との連携も継続している。
患者一人ひとりに最善の医療を届けるため、年中無休・通し診療という体制を実践。「患者様の生活の質の向上を使命とする」という姿勢のもと、予防から高度な専門治療まで幅広く対応している。