日々仕事や育児などをこなす方は、少なからずストレスを抱えています。
ストレスを完全に排除した状態で生きていくのは、現実的には不可能だと言えます。
しかし、日常生活のストレスを軽減することは、ある程度の虫歯予防につながるとされています。
今回はこちらの具体的な仕組みについて解説します。
唾液の分泌促進と質の維持による自浄作用
ストレスの軽減は、自律神経のバランスを整え、虫歯予防にもっとも重要な唾液の分泌量と質を正常に保つ仕組みを支えます。
人間の身体は、ストレスを感じると交感神経が優位になります。
交感神経が優位なときに分泌される唾液は、ネバネバして量が少なく、口の中が乾きやすくなります。
一方で、ストレスが軽減されてリラックスすると副交感神経が優位になり、サラサラとした質の良い唾液が豊富に分泌されるようになります。
唾液には、口の中の食べカスを洗い流す自浄作用があります。
さらに、虫歯菌が作り出す酸を中和して中性に戻す緩衝能という重要な働きがあります。
また酸によって溶け出した歯の表面にカルシウムやリンを補給し、修復する再石灰化の役割も担っています。
ストレスを減らして副交感神経を刺激することは、この天然のバリア機能である唾液を最大限に引き出すことになり、結果として虫歯のリスクを劇的に下げることができます。
口の乾燥を防ぐことが、健康な歯を守る第一歩となります。
口内免疫力の維持による虫歯菌の増殖抑制
ストレスの軽減は、身体全体の免疫システムを正常に機能させ、口の中の虫歯菌の過剰な増殖を抑える仕組みを持っています。
過度なストレスが長期間続くと、体内ではコルチゾールなどのストレスホルモンが過剰に分泌されます。
このホルモンはリンパ球の働きを低下させ、免疫力を低下させることが分かっています。
口の中も例外ではなく、免疫力が落ちることで、ミュータンス菌をはじめとする虫歯の原因菌が活性化し、増殖しやすい環境が作られてしまいます。
さらに、リラックスした状態に保たれた豊富な唾液中には、免疫グロブリン(IgA)やラクトフェリン、リゾチームといった抗菌物質が多く含まれています。
これらは、口に侵入した細菌や虫歯菌と戦い、その定着を防ぐ役割をしています。
ストレスが軽減されると、これらの抗菌成分が減少することなく正常に分泌され続けるため、細菌の繁殖を強力にブロックできます。
ストレスフリーな生活は、口の中の天然の抗菌薬をしっかりと働かせ、細菌の攻撃から歯を守るという免疫学的なアプローチから虫歯を予防します。
ブラキシズムの抑制
ストレスの軽減は、無意識のうちに歯を破壊してしまうブラキシズム(歯ぎしりや食いしばり)を物理的に抑制する仕組みにつながります。
人間は日常の不安やプレッシャー、怒りなどの精神的ストレスを、睡眠中や集中しているときに歯を強く噛みしめることで発散しようとする習性があります。
このときに歯にかかる力は、自分の体重の数倍に達することもあり、歯や周囲の組織に非常に大きな負担を与えます。
ブラキシズムが続くと、歯の表面を覆っているもっとも硬いエナメル質に微細なひび割れが生じたり、歯の根元が欠けたりします。
このひび割れや欠けた部分には、歯ブラシの毛先が届きにくいため、虫歯菌やプラークが溜まりやすくなり、急速に虫歯が進行する原因となります。
ストレスを上手に発散・軽減させることは、この過剰な顎の筋肉の緊張をほぐし、無意識の歯ぎしりや食いしばりを減らす効果があります。
さらに歯の物理的な破損や変形を防ぐことで、虫歯菌が侵入するための足がかりをなくし、歯の構造的な健康を維持することができます。
自律的な食行動の安定と健康的な生活習慣
ストレスの軽減は、虫歯の直接的な原因となる食生活を自律的かつ健康的にコントロールする行動学的仕組みをもたらします。
人は強いストレスを感じると、脳の報酬系が刺激を求め、手軽に快感を得られる甘いものや炭水化物を過剰に欲するようになります。
これはいわゆるやけ食いやドカ食いの原因となり、さらには頻繁に間食をとる、ダラダラと食べ続けるといった悪習慣を引き起こします。
口の中に頻繁に食べ物、特に糖分が入ってくると、唾液による再石灰化が追いつかなくなり、口の中が常に酸性の状態に傾くため、虫歯のリスクが爆発的に高まります。
またストレスによる精神的な疲労は、就寝前のブラッシングを面倒に感じさせ、オーラルケアを怠る原因にもなります。
ストレスが軽減されて精神的に安定すると、情緒的な飢餓感が収まり、規則正しい食生活を維持できるようになります。
間食が減り、口の中がリセットされる時間が十分に確保されるとともに、丁寧なブラッシングを行う心の余裕も生まれるため、生活習慣の観点から虫歯を強力に予防できます。
まとめ
ストレスは、あらゆる疾患に関係する要素として有名です。
虫歯も例にもれず、ストレスと関係の深い疾患であり、どれだけ日常生活をストレスフリーに近づけられるかが虫歯予防の鍵になります。
もちろん、ブラッシングなど基本的な虫歯予防を行うことは前提ですが、こうした多角的なアプローチが虫歯の発症リスクを減らすことに一役買ってくれます。
この記事を監修した人
ふたば歯科クリニック 川崎本院
理事長 大木 烈
昭和大学歯学部卒業後、昭和大学附属病院での臨床研修を経て歯科医師としてのキャリアをスタート。現在は医療法人社団雙葉会ふたば歯科クリニックの理事長として、医院を統括する。
インプラント治療においては国際インプラント学会専門医の資格を持ち、米インディアナ大学インプラント科客員講師として海外での学術活動にも従事。矯正・補綴など多岐にわたる分野の認定資格を有し、さらに歯学博士の学位を取得するなど、臨床・研究の両面で高い専門性を発揮している。また、厚生労働省認定の臨床研修医指導医として後進の育成にも力を入れており、昭和大学歯科病院および歯学部解剖学教室にも所属し、大学との連携も継続している。
患者一人ひとりに最善の医療を届けるため、年中無休・通し診療という体制を実践。「患者様の生活の質の向上を使命とする」という姿勢のもと、予防から高度な専門治療まで幅広く対応している。