スポーツが好きな方は、好きなチームを応援したり、試合結果に一喜一憂したりして、生活の質の向上やストレス解消につなげています。
しかしスポーツ観戦は、実は虫歯のリスクを高める可能性があります。
今回は、虫歯予防とスポーツ観戦の主な関係性について解説します。
応援中の口呼吸による唾液減少と乾燥リスク
スポーツ観戦中、特にひいきのチームや選手を熱烈に応援している間は、大声を出すことや興奮によって口呼吸になりがちです。
人間は興奮状態になると交感神経が優位になり、ただでさえ唾液の分泌量が減少します。
その状態で口を開けて声援を送り続けると、口の中が急激に乾燥してしまいます。
唾液には口の中の細菌を洗い流す自浄作用、酸に傾いた口腔内を中性に戻す緩衝作用、酸によって溶けかけた歯を修复する再石灰化作用という3つの重要な役割があります。
口呼吸によって唾液が干からびると、これらの防御機能がすべて停止し、虫歯菌が非常に活動しやすい環境が整ってしまいます。
白熱した試合では意識して鼻呼吸をすることが難しいため、試合のハーフタイムやイニングの間などでこまめに水分補給を行い、口腔内の湿度を保つことが重要です。
このとき、飲むものは糖分を含まない水や麦茶が最適であり、試合後にキシリトール配合のガムを噛むことで減少した唾液の分泌を意図的に促すことも高い効果を発揮します。
観戦中のダラダラ食べ、ダラダラ飲み
スタジアムや自宅でのスポーツ観戦において、ポップコーンやポテトチップスなどのおつまみを食べ、ビールやジュースを飲みながら観戦することは大きな楽しみの一つです。
しかし、試合展開を見守りながら何時間もダラダラと飲食を続ける行為は、虫歯リスクを劇的に跳ね上げる最も危険な要因となります。
私たちの歯は、食事をするたびに、細菌が糖分から作る酸によって表面が薄く溶かされる脱灰という現象を起こします。
通常であれば、食後に時間を空けることで唾液が時間をかけて歯を元の健康な状態に戻してくれます。
しかし、試合中に絶え間なく食べ物や飲み物が口に入り続けると、口腔内が常に酸性の状態に保たれてしまい、唾液による修復が追いつかなくなります。
結果として歯の表面が溶け続け、最終的に虫歯へと進行してしまいます。
これを防ぐためには、スポーツ観戦中の飲食にメリハリをつけることが重要です。
前半戦のうちに食べる、ハーフタイムにまとめて済ませるといったルールを決め、ダラダラと手を伸ばし続けるのを防ぎましょう。
また食べ終わった後にすぐ水で口をゆすぐだけでも、口腔内に残った糖分や酸を洗い流すことができるため、非常に効果的な簡易ケアになります。
炭酸飲料やアルコール飲料の酸性度
スポーツ観戦のお供として定番のコーラなどの炭酸飲料、そしてビールやサワーなどのアルコール類には、虫歯を引き起こす高い糖分と強い酸性度という罠が隠されています。
一般的に、口腔内のpH値が5.5以下になると歯のエナメル質が溶け始めると言われています。
炭酸飲料の多くは、pH値が3〜4前後と非常に強い酸性です。
また、アルコール飲料自体も酸性度が高く、さらに利尿作用があるため体内の水分を奪い、唾液の分泌量を低下させるダブルパンチを与えます。
これらの飲料を試合中に少しずつ飲み続けると、糖分が虫歯菌のエサになるだけでなく、飲料自体の酸によって歯の表面が直接溶かされる酸蝕症のリスクも同時に高まります。
観戦の楽しみを損なわずに歯を守るには、チェイサーの手法が実践的です。
アルコールや甘い飲み物を一口飲んだら、その後を追うように水を一口飲む習慣をつけましょう。
これにより、口腔内のpH値が急激に下がるのを防ぎ、中性付近へ素早く戻す手助けができます。
さらにストローを使って飲むことで、液体が直接歯に触れる面積を減らすというのも、スタジアム等で使えるテクニックです。
観戦後の夜更かしとブラッシングの怠慢リスク
深夜や早朝に行われる海外のサッカー欧州遠征、オリンピック、WBCなどの国際大会をテレビの前でリアルタイム観戦する場合、どうしても夜更かしをすることになります。
また試合が劇的な勝利や悔しい敗戦で終わった後、強い興奮や精神的な疲労によって、そのままベッドに倒れ込んで眠ってしまった経験がある方も多いでしょう。
睡眠中は、起きている時に比べて唾液の分泌量が極端に減少します。
もし観戦中に飲食したおつまみのカスや糖分、酸が口の中に残ったまま歯磨きをせずに眠ってしまったら、夜間の数時間は虫歯菌にとって天国のような繁殖時間になります。
昼間にどれだけ丁寧に歯を磨いていても、睡眠前のブラッシングを怠るだけで、虫歯の発生・進行リスクは数倍に跳ね上がります。
そのため“試合が終わったら磨く”ではなく、“試合が始まる前、またはハーフタイム中に一度歯を磨いておく”という逆転の発想がおすすめです。
あらかじめ口の中を清潔にしておけば、万が一試合後に寝落ちしてしまっても最低限のダメージで抑えられます。
さらにどうしても眠気や疲労で洗面所に行けない時のために、枕元やテレビの近くにマウスウォッシュや歯磨きシートを常備しておけば、起き上がることなく口内をケアできます。
まとめ
虫歯予防とスポーツ観戦は一見関係なさそうに見えますが、実は深い関係があります。
またその関係の多くが、前述の通りマイナスなものであり、スポーツ観戦が趣味の方は注意しなければいけません。
逆に言えば、虫歯予防を意識しながらであれば、スポーツ観戦はとても健全な趣味だと言えます。
もちろん、他の趣味でも常に虫歯予防のことは考慮しておかなければいけません。
この記事を監修した人
ふたば歯科クリニック 川崎本院
理事長 大木 烈
昭和大学歯学部卒業後、昭和大学附属病院での臨床研修を経て歯科医師としてのキャリアをスタート。現在は医療法人社団雙葉会ふたば歯科クリニックの理事長として、医院を統括する。
インプラント治療においては国際インプラント学会専門医の資格を持ち、米インディアナ大学インプラント科客員講師として海外での学術活動にも従事。矯正・補綴など多岐にわたる分野の認定資格を有し、さらに歯学博士の学位を取得するなど、臨床・研究の両面で高い専門性を発揮している。また、厚生労働省認定の臨床研修医指導医として後進の育成にも力を入れており、昭和大学歯科病院および歯学部解剖学教室にも所属し、大学との連携も継続している。
患者一人ひとりに最善の医療を届けるため、年中無休・通し診療という体制を実践。「患者様の生活の質の向上を使命とする」という姿勢のもと、予防から高度な専門治療まで幅広く対応している。