ブラッシングは、自宅でできるセルフケアとしてもっともポピュラーなものであり、なおかつ虫歯予防において必要不可欠なものでもあります。
しかし、場合によってはブラッシングをしない方が良いタイミングもあります。
今回は、どのようなときに磨くのを控えるべきなのかについて解説します。
ブラッシングを控えた方が良いタイミング4選
以下のタイミングでは、基本的にブラッシングを避けるべきです。
・口内に重度の炎症や口内炎があるとき
・口腔外科手術の直後
・就寝中に目が覚めて水分を補給した直後
・その日すでに4回以上磨いているタイミング
各項目について詳しく説明します。
口内に重度の炎症や口内炎があるとき
歯周病の急激な悪化や、大きな口内炎ができて歯茎が腫れ上がり、激しい痛みがあるようなタイミングでは、ブラッシングを一時的に控えるか方法を変える必要があります。
炎症を起こして過敏になっている歯肉組織に対し、普段と同じようにナイロン製の歯ブラシで強い摩擦を加えると、毛先が患部を直撃して粘膜をさらに傷つけてしまいます。
これにより炎症が悪化するだけでなく、傷口から細菌が血流に入り込む菌血症のリスクを高めたり、治癒が大幅に遅れたりする原因になります。
虫歯予防のためにプラークを落とすことは重要ですが、組織が破壊されている局面では無理なブラッシングは逆効果です。
このようなタイミングでは、毛先が極めてやわらかい術後用・敏感肌用の歯ブラシを使用し、患部を避けて優しく撫でるように磨きましょう。
あるいは、ブラッシングの代わりに殺菌効果のある薬用洗口液を口に含んで優しくゆすぐだけに留めます。
痛みが引き、組織の修復が始まってから、通常の丁寧なブラッシングへと段階的に戻していくのが賢明です。
口腔外科手術の直後
親知らずの抜歯やインプラント手術、歯根端切除術といった、口の中をメスで切開したり骨を削ったりする手術を行った直後は、患部周辺のブラッシングを絶対に避けてください。
手術後の傷口には、出血を止め、傷を修復するための重要な役割を果たす血餅と呼ばれるゼリー状の血の塊が形成されます。
この血餅は、露出した骨や神経を外部の刺激から守る天然の絆創膏です。
手術直後から翌日あたりにかけて、傷口の周辺を歯ブラシで擦ってしまうと、毛先が触れることでこの血餅が簡単に剥がれ落ちてしまいます。
血餅が失われると、骨が剥き出しになって激しい激痛を伴うドライソケットという状態になり、細菌感染や骨髄炎を引き起こす引き金になります。
手術直後は、処置を受けた部位には絶対に歯ブラシを触れさせてはいけません。
他の健康な歯のエリアだけを慎重に磨き、手術部位は歯科医院から処方された消毒効果のあるうがい薬を口に含み、頭を軽く傾ける程度でそっと洗い流すだけに留めてください。
就寝中に目が覚めて水分を補給した直後
夜中に喉が渇いて目が覚め、スポーツドリンクや乳酸菌飲料、あるいは砂糖入りの缶コーヒーなどを飲んで水分補給をした直後は、眠気もあってそのまま寝てしまいがちです。
また、もしブラッシングをするとしても注意が必要です。
寝ている間は、お口の中を守る最大の防御壁である唾液の分泌量が日中に比べて極端に減少します。
唾液が枯渇した環境下で糖分や酸を含む飲み物を摂取すると、口の中は一瞬で虫歯菌が活躍する酸性環境へと変化し、その状態が朝まで長く維持されてしまいます。
一方夜中に目が覚めて頭が朦朧としている状態で、急いでゴシゴシと強い力でブラッシングを行うことも、傷つきやすくなっている歯茎や歯根を痛める原因になります。
また、研磨剤入りの歯磨き粉を十分に吐き出せないまま再び眠りにつくことも、粘膜に悪影響を与えます。
夜中の水分補給は、虫歯リスクを排除するために水か麦茶のみに限定するのがベストです。
もしどうしても甘いものを口にしてしまった場合は、激しいブラッシングではなく、まずは水で何度も念入りにうがいをして糖分を洗い流すことを最優先にしてください。
その日すでに4回以上磨いているタイミング
虫歯を絶対に作りたくないという強い強迫観念から、毎食後に加え、間食のたびあるいは1日に4回も5回も頻繁にブラッシングを行っている方もいます。
しかし、その過剰な回数のタイミングはかえって歯を破壊しています。
歯の表面のエナメル質や、加齢・歯周病で露出してきた歯の根元は、1日に何度も何度も歯ブラシで擦られると、物理的な摩擦によって少しずつ摩耗していきます。
この過剰なケアによる弊害をオーバーブラッシングと呼びます。
特に力を入れすぎて磨く癖がある人が回数を増やすと、歯茎が退縮して下がってしまい、歯の根元がくさび状に削れてしまう原因になります。
根元の象牙質はエナメル質よりも非常にやわらかいため、虫歯菌の出す酸にあっという間にやられてしまい、かえって根面う蝕という厄介な虫歯をつくることになります。
虫歯予防において重要なのは磨く回数ではなく、1日2〜3回、特に唾液が減る就寝前の1回に時間をかけ、適切な力で完璧にプラークを落としきるという質の高さです。
磨きすぎている自覚があるなら、回数を減らして1回の精度を高めましょう。
まとめ
ブラッシングは毎日行わなければいけないセルフケアですが、必ずしも口内環境を良好にするとは限りません。
タイミングによっては、かえって口内環境を悪くしてしまい、歯もダメージを受けることが考えられます。
そのため、歯科クリニックでブラッシング指導を受け、タイミングを含む細かい指導を受けることが望ましいです。
この記事を監修した人
ふたば歯科クリニック 川崎本院
理事長 大木 烈
昭和大学歯学部卒業後、昭和大学附属病院での臨床研修を経て歯科医師としてのキャリアをスタート。現在は医療法人社団雙葉会ふたば歯科クリニックの理事長として、医院を統括する。
インプラント治療においては国際インプラント学会専門医の資格を持ち、米インディアナ大学インプラント科客員講師として海外での学術活動にも従事。矯正・補綴など多岐にわたる分野の認定資格を有し、さらに歯学博士の学位を取得するなど、臨床・研究の両面で高い専門性を発揮している。また、厚生労働省認定の臨床研修医指導医として後進の育成にも力を入れており、昭和大学歯科病院および歯学部解剖学教室にも所属し、大学との連携も継続している。
患者一人ひとりに最善の医療を届けるため、年中無休・通し診療という体制を実践。「患者様の生活の質の向上を使命とする」という姿勢のもと、予防から高度な専門治療まで幅広く対応している。